見えることの美しさ【思考は「見ること」から始まります】

成功 教育

僕が子育てや教育の現場で常に思っていることがあります。

よく見て、よく聞いて、じっくり考えて欲しい

仕事柄、学習塾で授業をしています。学習塾とは、カリキュラムがあり、気にしなければいけない学校などの進度があり、志望校合格という目標があり、時間との闘いという場であることは必然なのです。それゆえ、当たり前のごとく生徒たちには持っている時間を気にさせ、時間との闘いあることを意識化させています。受験で成功するためには「時間」の概念を正しく持つことが必要不可欠です。

けれども、僕の心の中での最優先事項はこの類のものでは全くありません。それどころか実際は真逆で、生徒たちには

  • 時間をかけて物事を観察し、把握をしようと試み、言われたことや書かれていることを理解しようとする
  • そして、そこで得た情報と自分が頭の中で既に持っている情報(知識)とを照合し、そこから丁寧に思考を進めていく

ということを促していきます。

詳しくはそのうちお話したいと思っていますが、共通テストで持てはやされている「思考」とは、正しくはこの上記の手順全体のことです。思考の手順(流れ)を整理してみると

「思考」の手順(流れ)

  1. 物事を観察
  2. 現象を把握する
  3. 把握したことと関係する経験知識と照合し
  4. 思考理解を繰り返し
  5. 行きついた一つの結論を表現する

となります。この手順はどこが欠けても、満足のいく結論には至れません。いずれも重要なプロセスなのですが、ここであまり取り沙汰されないのが「物事を観察する」ことです。

思考は観察することから始まる

思考することのスタートが観察することである以上、観察することなしに思考は始まりません。そういう点で

思考は観察することから始まる

と言えます。子どもにもっと考えて欲しいと思うとき、僕はいつも「もっとよく見て」といいます。よく見てもらったら、そこから自然と思考が始まり、すんなり解決することもとても多いです。

そして、もっとよく見てほしい、観察してほしいと思うとき、いつも頭をよぎる言葉があります。それは次のヘレン・ケラーの言葉です。

見えることの美しさ【その美しさから思考へ】

ヘレンがある落胆から、人々にとても大切なことを伝えようとしたエッセイがThree Days to See(邦訳「目の見える3日間」)です。彼女は、ある日、森の中を長い間歩いてきた友人に、森の中にどんなものがあったかと尋ねました。すると、友人は「別に何も」と答えたのです。そのときに感じたをヘレンは次のように綴ります。

1時間も森の中を散歩して、『別に何も』ないなんてことがどうしたら言えるのだろうと思いました。目の見えない私にもたくさんのものを見つけることができます。左右対称の繊細な葉、白樺のなめらかな木肌、荒々しくゴツゴツとした松の木の樹皮…。

(中略)

目の見えない私から、目の見えるみなさんにお願いがあります。明日、突然目が見えなくなってしまうかのように思って、すべてのものを見てください。そして、明日、耳が聞こえなくなってしまうかのように思って、人々の歌声を、小鳥の声を、オーケストラの力強い響きを聞いてください。明日、触覚がなくなってしまうかのように思って、あらゆるものに触ってみてください。明日、嗅覚と味覚を失うかのように思って、花の香りをかぎ、食べ物を一口ずつ味わってください。五感を最大限に使ってください。世界があなたに見せてくれているすべてのもの、喜び、美しさを讃えましょう。

すべての学びは「観察」から始まります。理科(いわゆる自然科学)は自然を観察するところから、社会(いわゆる社会科学)は人間の営みを観察することから始まっているわけです。

勉強は紙と鉛筆の世界で、机に向かって行うものですが、学びは外に出て世界を感じることから始まります。学校のテストや試験などの点数だけを見るならば、時間をかけて実際に外に出て色々なものを感じ取ることは非効率だといういうことになります。けれども、物事から何かを感じ取ることは、思考力を養うためには必要不可欠なものです。

可能な限り外に出て、いろいろな世界を見る!

これが思考の始まりなのです。そして、ヘレンは先ほどのくだりの最後に一言だけ付け加えています。

けれども、すべての感覚の中で、私は見えることがもっとも美しいと思うのです。

外に出て「美しい(delightful)」と感じられるほどよく見ることができれば、それだけで人生は明るく楽しくなるのではないでしょうか。

最後に引用した部分の原文をつけておきます。

《原文Three Days to See/ Helen Kellerより抜粋》
I who am blind can give one hint to those who see –
one admonition to those who would make full use of the gift of sight:
Use your eyes as if tomorrow you would be stricken blind.
And the same method can be applied to other senses.
Hear the music of voices, the song of a bird, the mighty strains of an orchestra,
as if you would be stricken deaf tomorrow.
Touch each object you want to touch
as if tomorrow your tactile sense would fail.
Smell the perfume of flowers, taste with relish each morsel,
as if tomorrow you could never smell and taste again.
Make the most of every sense;
glory in all the facets of pleasure and beauty
which the world reveals to you
through the several means of contact which Nature provides.
But of all the senses, I am sure that sight must be the most delightful.