【先取り教育の幻想】オススメできない理由があります

受験 成功 教育

学校の授業より先に学ばせる「先取り教育」はオススメできません。その理由は…

子育ての中で子どもの学習というのはすごく気になることです。わが子が少しでも年齢以上のことをしたら、親は何か安心感のような優越感のようなものに浸りがちです。僕もそういう気持ちになることがあります。

就学前に小学1年生で学習する内容ができれば、「おお、うちの子はすごい!?」と思うのは割とふつうでしょう。平仮名や片仮名が少し書けたり、ちょっと簡単な足し算ができたりと。

絵本を読んでいる中で平仮名を覚えて見よう見まねで紙に書いてみる。関心あるものを数えるときにちょっと足し算の練習をしてみる。こんな風に遊びや学びの一環でまだ習っていないことに触れたりちょっと練習してみたりすることはとても良いことです。

けれども、その延長上であったとしても、「よし、この機会に平仮名を書き順も含めて完璧に習得させよう」「1桁+1桁をよどみなくできるまで練習させよう」ということはお薦めできません。これはいわゆる「先取り教育」というものですが、「先取り教育」にメリットと思えるものがないからです。

教育というのは、なかなかデータで示すことが難しいのですが、大学受験に20年以上携わって指導している中で「この子は先取り教育によって成功しているな」と感じたことは一度たりともありません

先取り教育によって子どもの学習が上手くいっているように見えるのは、小学生の間だけです。中学生になると、もはやほとんど見て取ることは難しく、高校生になると全く感じることはできません。つまり、高校生の学習を見ている中で、「この子は先取り教育を受けてきた子である」と言い当てることは不可能なのです。

先取り教育とは

先取り教育とは、後に学校教育で習うであろう内容を先に学習させることです。就学前に小学生低学年の内容、例えば、平仮名・片仮名・漢字をきちんと覚えさせようとしたり、算数の内容を先に習得しようとしたりすることです。

もちろん、子どもは好奇心旺盛で背伸びをしたがるものです。その流れでちょっと学んでみるというのは先取り教育とは言いません。小学生が週1回楽しく英会話教室に通っていることは先取り教育ではありません。幼稚園児の子どもが「パパ、名前を漢字で書いてみたいけど教えて!」って言ってきたときに、「よし、ちょっと難しいぞ。〇〇ちゃんには書けるかな!」と言いながら教えることも違います。

先取り教育は、「教育」なのでカリキュラムに則ってきちんと行われるものです。将来学校で学ぶであろうことを、完全に再現して同じような流れで先に教育を受けさせることです。これが「先取り教育」と言われるものです。

先取り教育の評価

では、この先取り教育というものの評判は良いのでしょうか、それとも微妙なのでしょうか。

先取り教育の評価をよく見てみると

どのようなことについても、是非について考える場合、情報収集は欠かせません。周りの人や書籍、今時であればネットやSNS的なものでも情報収集できます。

先取り教育について情報収集をしてみると意見は分かれています。「しておくべきだ」という人と「する必要はない」という人と。意見が分かれていることから、するべきかどうかを悩まれるかもしれませんが、この時、一つ気にして欲しいことがあります。意見を言っている人の立場や見ている場所を確認してみてください

幼稚園とか小学校のママ友の中で、上の子を持っている人が上の子の子育ての成功体験として「先取り教育をしてて良かったわ。絶対にさせておかなくっちゃ」と言っていたとしましょう。このとき、この人の立場は子どもの母親です。申し上げにくいですが、教育者ではなく、教育においては素人ということになります。そして、上の子が6年生で受験真っ只中だった場合、見ている場所は中学受験となります。

整理すると、「素人の方が中学受験という点において、一人の子の経験を踏まえると、先取り教育には賛成だと言っている」というわけです。

このような感じで、先取り教育についての意見を整理してみます。僕もネット上で先取り教育についての意見を収集してみました。そうすると、一つの結果にたどり着きます。

先取り教育において賛成している場合、焦点が当たっている場所は「中学受験」です。一方、反対している場合、焦点は「大学受験」や「将来」になっています。

この結果から考えると「先取り教育」の是非についての答えは明白で、先取り教育はあまりオススメできないと言えるでしょう。

浪人生を見てみると

先取り教育が上手くいかないことがわかる一つの事実として、浪人生の成績が挙げられます。よく言われることなのですが、浪人をして成績が上がっているのは浪人生全体の2割ほどのようです。

僕の感覚でも、成績が上がっている浪人生は多めに見積もっても3割はいないだろうという感じです。ただこれは真面目に予備校に通って、一生懸命勉強した浪人生を全体としての割合です。成績を上げることができている生徒は10人中多くて3人で、10人中7人はほとんど上げることができないということです。浪人生は1年間という追加の時間を得て、余裕を持って受験の準備ができているはずです。なのに、このような結果になっています。

つまりは、受験は、受験対策の時間を多めに持てれば、それだけで成績が上がるというようなものではないということなのです。

この事実を知ると、先取り教育のメリットである「先に学習していけば、早めに受験準備に取り掛かることができて、余裕をもって受験に臨める」ということにそれほどの価値があるとは思えなくなります。実際に、先取り教育によって大学受験を楽にこなせるなんてことはありません

「先取り教育によって受験は楽になる」という考え方は、論理的には確かに正しいです。どのようなことであれ、先に準備しておくことは大切であり、それにメリットがないなんて考えられません。けれども、学習においては本当にうまくいきません。それにはきちんとした理由があります。

先取り教育がうまく行かない理由

先取り教育がうまく行かない理由は、次の事実が物語っています。

九九は小学2年の2学期に学びます。学習期間はおよそ2カ月ほどですが、たいていの小学2年生は習得するのに2カ月も要しません。見ている様子では1か月ぐらいでしょうか。

ところが、その九九を幼稚園児に習得させようとしてみます。どれぐらいの時間がかかるのかということですが、園児だとおよそ半年かかります。「えっ、そんなに!」って思うかもしれませんが、2年生の習得度と同じぐらいに持っていこうとすると本当に時間がかかります。

習得するのにこれほどの差が生じる理由は至って簡単です。年齢による能力の差です。多くの子どもたちを指導していると一目瞭然なのですが、子どもは放っておいても能力が上がっていきます。そして幼稚園児と2年生の2歳の差はとても大きな差であり、同じことをさせても出来も違いますし、出来るようになるのにかかる時間も相当違います。兄弟をお持ちの方なら、当然だと思われるでしょう。

ここで気になるのは、

「では膨大な時間をかけて幼稚園児に九九を習得させることに意味はあるのか」

ということです。残念ながら、メリットは何もありません。なぜなら、幼稚園児の時に出来るのは確かにすごいのですが、2年後は周りのみんなも出来て、違いはなくなってしまうからです。つまり、2年後には同じなのです。

このように言うと、「その2年の間にさらに学習を進めていけば、追いつかれないでしょう」と思われるかもしれません。確かに、そのように努力をし続けていけば追いつかれないような気がします。なにやら『アキレスと亀』みたいな話ですが、実際には受験の時期が来たら完全に追いつかれてしまいます。そして、他の子と特に大きな差はないといった感じになります。

なぜ追いつかれてしまうの!?

先取り教育の一つの目的は、早めに先に進んで学習内容を終えて、受験対策に余裕を持たせたいというものです。

確かに戦略的には正しそうですが、残念ながらそのようにはなりません。もしそれで上手くいくなら、最近流行りのプレスクールに早期から通っている子どもたちは中学受験の合格実績が良いはずです。けれども、実際にはそんなことにはなっていません。

なぜう上手くいかないのか。それはずばり、学力を上げていないからです。これは先取り教育を行ったときの大きな問題点の一つです。

先取り教育は、追いつかれることを嫌うので、とにかく学習を進めていこうとします。どんどん進めていくことに重きを置いているというわけです。そのため、じっくり考えるということがほとんどできず、学力を上げることができなくなっています。

どれだけ受験対策に時間を使ったとしても、学力が足りなければ難しい問題を解けるようにはなれません。つまり、早めに受験対策ができたとしても、すぐに頭打ちになり、成績を伸ばせないのです。そして、そうこうしているうちに追いつかれ、そして追い越されます。

教育業界で先取り教育を薦める人なんていません

さらっと言いましたが、もう一度断言しておきます。

  • 先取りをしても確実に追いつかれて、追い越されます

これは僕の意見とかではなく、事実です。

なんか「驚愕の事実」みたいな内容になっていますが、教育業界に身を置いていれば、毎年見る「当たり前の光景」でしかないのです。なので、教育に携わる人で先取り教育を薦める人はいません。いたら、モグリか、低学年しか見ていなくて本当に事実を知らないかのどちらかでしょう。

大切なことは、先に学ぶことではなく、学んだことを深く理解していこうとすることです。つまり、じっくり考えさせることを心掛けてください。それが学力を上げるための方法で、成功への道なのです!

先取り教育のもう一つの問題点

先ほど、先取り教育の大きな問題点として「学力が上がらない」ということを言いました。これに匹敵するもう一つの問題点があります。それは、先取り教育は膨大な時間を要するということです。

九九の話を思い出してください。小学2年生だと1か月そこらで習得することを、就学前にさせるとおよそ半年かかるということでした。この膨大にかけた時間の分、何か見返りがあるのでしょうか。どう考えても、どこにもメリットなんて見つけられません。学年が上がったら勝手にできるようになることに膨大な時間をかけることに何のメリットもないのです。

それどころか、貴重な子どもの時間をそんなことに使ってしまっているわけです。遊びの中でも成長していく子どもの大切な時間を奪ったわけです。つまり、先取り教育は成長の時間を奪っていることに他なりません。

実際、僕の感覚では先取り教育を受けた子どもは、受けていない子よりも学力が劣ります。そう感じるほど、先取り教育は価値がないだけでなく、成長に必要な時間を浪費してしまっているのだと言えるでしょう。

このデメリットは、ちょっとしたメリットでは帳尻が合わないほどのものです。この点においてだけでも、先取り教育は絶対にオススメできないのです。